
北海道及び旭川市の宿泊税導入における課税の不公平問題について、今まで担当部署に繰り返し質問を送ってきました。そして、旭川市においては行政から議会へとステージを変更しました。
本記事は北海道の行政側との交渉の最終回です。過去の経緯をご存じない方は、以前の記事もあわせてご覧ください。
結論を最初に言う
長いやり取りを経て、北海道の最終的な立場は一言で要約できます。
「違法業者への対策は何もしない。する予定もない。根拠も示せない」
これが、宿泊税を導入した北海道の課税公平性に関する最終回答です。
問題のおさらい:なぜ課税の不公平が生じるのか
宿泊税の特別徴収義務者は、旅館業法の許可事業者および住宅宿泊事業法の届出事業者に限られます。つまり、無許可・無届けで営業している違法業者は制度上の課税対象にならない。
結果として
- 合法事業者 → 宿泊税を徴収・納税する義務を負う
- 違法業者 → 同じ市場で競合しながら税負担ゼロのまま
これは単なる「不公平感」ではありません。違法であることが経済的に有利になるという、制度が生み出す歪んだインセンティブです。この問題を何度も行政にぶつけてきましたが、今回ようやく「最終回答」が出そろいました。
行政の最終回答:部署ごとの「責任のなすりつけ」
今回、2つの担当部署から最終的な回答を得ました。読んでいて思わず苦笑いするほど見事な「たらい回し」の構図です。
総務部財政局税務課:「うちには権限がない」
税務課は少なくとも正直でした。
総務部は不法業者に対し、指導や立入調査を行う権限を有していないため、総務部として不法業者に対する方針、体制は整備しておりません。
権限がないから何もできない——それ自体は制度論として理解できます。では、課税公平性の担保として何ができるのかを問うと出てきた答えはこれです。
「通報が来たら保健福祉部に情報共有する。」
その法的根拠を問うと
上記措置は法律に基づくものではないため、法的根拠等はございません。
法的根拠のない「口頭連絡」が、宿泊税の課税公平性を担保する唯一の仕組みとして示されました。
保健福祉部健康安全局食品衛生課:「個別対応している、でも強化はしない」
実際に違法営業を取り締まる権限を持つのは食品衛生課です。では、その食品衛生課は何をしているのか。
違法業者の実態把握について:
現状の探知件数が無許可営業の実態把握として妥当であるかは母数がなく評価が難しい。
北海道内に違法な宿泊業者が何件あるか、行政は把握していません。「母数がわからない」ということは見えていない違法業者がどれだけいるかも不明、ということです。
命令権限の発動基準について:
緊急に措置をとる必要があるかについては個々の具体事例により判断する。
いつ、何をもって命令を出すのか?明確な基準は存在しません。
宿泊税導入に伴う体制強化について:
今後より効果的な取締りが可能な手法について現時点においてお答えできる内容はありません。
宿泊税の導入を決めながら、それに伴う取り締まり強化策は「現時点では答えられない」。
「責任者不在」という構造的問題
整理するとこうなります。
| 論点 | 税務課の回答 | 食品衛生課の回答 |
|---|---|---|
| 違法業者の排除責任 | 権限なし・対策なし | 従来通り個別対応 |
| 違法業者の実態把握 | (権限外) | 母数不明・評価不能 |
| 体制強化の予定 | (権限外) | 現時点で答えられない |
| 課税公平性の法的担保 | 法的根拠なし | 示されず |
税務課は「取り締まりは食品衛生課の仕事」と言い、食品衛生課は「宿泊税導入と関係なく従来通り対応する」と言う。
誰も「宿泊税の課税公平性を担保する責任者」として手を挙げていません。
特に深刻:国外事業者への対応は完全な空白
海外プラットフォームを経由し国外居住者や国外法人が実質的に運営する宿泊サービスについて具体的な執行スキームを問いました。
北海道税条例第5条に「納税管理人の選任」規定はあります。しかし
- 違法営業の探知方法→ 通報と検索のみ
- 実質的経営者の認定基準→ 個別に確認する
- 納税管理人選任の確保手法→ 具体策なし
- 強制措置への移行基準→ 個別判断
条例に規定はある。でも機能させる執行体制がない。これでは条文が存在するだけの「張り子の法律」です。
結論:北海道の宿泊税は課税の公平性を担保できていない
長い交渉を経て、私はこの問いに明確に答えられます。
担保できていません。制度として成立していません。
感情論ではありません。行政自身の回答がそう証明しています。
課税の公平性が制度として成立するためには、最低限この3つが必要です。
① 課税対象外の違法業者を網羅的に把握・排除できること
→ 食品衛生課の回答:「母数がなく評価が難しい」。違法業者が何件あるかすら不明です。
② 排除のための執行基準と強制力が明確であること
→ 食品衛生課の回答:「個々の具体事例により判断する」。基準は存在しません。
③ 課税公平性を担保する責任部署と権限が明確であること
→ 税務課:「権限がないため対策を整備していない」。食品衛生課:「宿泊税導入に関わらず従来通り対応する」。責任者は誰もいません。
3つ全てが満たされていない。これは「不十分」ではなく、制度の前提条件が欠けているということです。
北海道は宿泊税を導入することを決めました。しかし、その税が公平に機能するための執行体制を整えないまま導入するということは、合法的に経営する事業者に対して不公平を制度として押しつけることを意味します。正直者が税を払い違法業者は払わない。その差は、宿泊税導入によって制度的に固定されます。
さらに見落とされがちな非対称性があります。合法事業者が宿泊税を納めなければそれは脱税として問われます。一方、違法業者はそもそも特別徴収義務者ではないため、同じ「払わない」という行為であっても脱税として問えるとは限りません。合法であることが罰則リスクを生み、法であることがそのリスクを回避させる——この逆転した構造を、現行の制度設計は内包しています。
行政交渉を終えて
今回の一連のやり取りで行政への問い合わせが持つ限界を改めて感じました。
担当者が誠実でないわけではないと思います。しかし、部署の権限と縦割り構造の中では、制度全体を俯瞰して「課税公平性を誰が担保するか」を答えられる立場の人間が存在しないのです。
食品衛生課は旅館業法の執行機関であって宿泊税の公平性を守る機関ではない。税務課は条例に基づく徴収機関であって違法業者を取り締まる権限はない。そのどちらもが「もう一方の仕事だ」と言える構造になっている。
これは担当者個人の問題ではなく制度設計の欠陥です。
次のステージへ:北海道議会での追及
行政との交渉はここで一区切りとし、次は旭川市と同様に宿泊税の導入を議決した北海道議会に対して問題提起を行う予定です。具体的には
- 宿泊税条例の制度設計における課税公平性の担保規定の欠如
- 違法営業排除の執行体制強化を条例・予算に明記することの必要性
- 国外事業者への執行スキームの整備
これらを議員に直接届け、議会質問として取り上げてもらうよう働きかけます。
行政が「現時点では答えられない」と言うなら、それを決める権限を持つ場所に問うしかありません。




