
東京23区をはじめ、全国の自治体で民泊に対する規制強化の動きが急速に広がっている。
住居専用地域での営業原則禁止や、年間営業日数の大幅縮小など、いよいよ行政が本格的な抑え込みに乗り出した形だ。
誤解のないように言っておくと、私自身も民泊事業に携わる当事者ではあるが、23区内、京都、大阪市内の一部でここまで近隣トラブルや観光公害(オーバーツーリズム)が深刻化している現状を見れば、住民の生活環境を守るための一定の規制強化はやむを得ないと考えている。騒音やゴミの不法投棄に長年悩まされてきた地域住民の怒りや不安は、至極当然のものだ。
しかし、一連の規制強化のニュースを見ながら、激しい違和感と憤りを拭えないのはなぜだろうか。それは、行政と議会がこれまでやってきた「不作為」と、今回打ち出した「対策のピントの外れ方」があまりに酷いからだ。
そもそも「届出をバンバン受諾してきた」のは誰なのか
いま行政や議会は「住民の生活を守るために規制を強める」と誇らしげにアピールしている。
だが、そもそも住居専用地域や学校の周辺(文教地区)にまで民泊の届出を安易に受諾し、あるいは簡易宿所などの営業許可を出し続けてきたのは、他ならぬ行政自身だ。
ちなみに北海道では、住居専用地域や学校から100m以内での開業はNGである。
「法律の要件を満たしているから」と機械的に許可を出し、住宅地に観光客が押し寄せる未来のトラブルを予見しながらも野放しにしてきた。この初期対応の不作為こそが、現在の惨状を招いた元凶である。
現行ルールすら満足に取り締まってこなかった行政の無能
百百歩譲って事業を認めたとしても、現行の法律や条例のもとで行政ができる取り締まりは山ほどあったはずだ。
家主不在型の民泊には、ルール上
「トラブル時に管理業者が30分以内に駆けつけること」
が義務付けられている。
しかし、悪質業者や違法民泊は電話すら繋がらず、駆けつけ義務を完全に無視。深夜に騒音やゴミトラブルが発生しても、現場には誰も来ないのが現実だ。
ならば行政が取り締まるべきだが、保健所などの担当部署は「夜間・休日は勤務時間外」と突っぱね、住民に「当事者同士で解決してください」「警察に通報してください」とタライ回しにしてきた。
事業者側に紙の上の規則(駆けつけ義務)を課すだけで、それが履行されているかを監視・指導する「行政側の夜間・休日体制」はゼロ。業者も行政も現場に来ず、実質的にトラブルを放置してきたのだ。
行政は「人手やリソースが足りない」と言い訳するかもしれない。だが、それなら一体何のために「宿泊税」を徴収しているのだろうか?
観光客や事業者から徴収するだけ徴収し、使い道も不透明な宿泊税があるのなら、それこそ夜間・休日の監視・取締体制(夜間巡回パトロールや24時間通報窓口)の構築に充当すればいいだけの話だ。取るものだけ取って、トラブル対応のコストやリソース不足を理由に怠慢を決め込むのは、行政として完全な説明責任放棄である。
真面目な正規事業者に負担を押し付け、違法業者をのさばらせる「脳内お花畑」
そして今、行政と議会が持ち出してきたのが「一律の規制強化」だ。ここには根本的な論理の飛躍と、行政の無責任さがある。
これまで行政の指導に従い、近隣住民への説明や騒音対策、消防設備の設置などに多大なコストをかけて真面目に運営してきた正規事業者の努力や行動は、今回の規制強化によってあっけなく蔑ろにされる。ルールを守ってきた事業者にこそ、一方的に廃業や営業縮小という理不尽なリスクと負担が強いられているのだ。
一方で、現場で起きているトラブルの元凶である「最初からルールを守る気のないヤミ民泊」や悪質業者はどうなるか。彼らはどれだけ厳しい条例を作ろうが、そもそも届出すら出していないのだから痛くも痒くもない。
現行ルールすら満足に運用・摘発できていない行政が、紙の上の法律や条例を厳しくしたところで、真面目な事業者が撤退し、悪質業者だけが地下化して生き残るという最悪の悪循環に陥るだけだ。これを理解していないとすれば、行政や議会の感覚はあまりにも
「脳内お花畑」
と言わざるを得ない。
必要なのは「新しいルール」ではなく「現場の罰則適用」だ
ポーズだけの規制強化で仕事をした気になっている行政と議会に騙されてはならない。今必要なのは、新しい看板を掲げることではない。
- 行政側においても夜間・休日でも即座に現場へ駆けつける監視体制の構築
- 違法業者・悪質管理業者への即座の営業停止と罰則の適用
- 無許可物件を掲載し続けるプラットフォームへの強烈な法的ペナルティ
これら「現行ルールの徹底的な執行」に予算と人員を割かない限り、どれだけ美しい規制条例を作ったところで、住民の平穏な暮らしが戻ってくることは絶対にない。
この「規制強化」は全国へ広がるのか?
では、東京23区で加速するこの規制強化の波は、全国へと波及していくのだろうか。結論から言えば、「需要の質と供給能力(キャパシティ)」によって地域ごとに明確な二極化が進むと考えている。
すでに観光公害(オーバーツーリズム)が限界を迎え、住民トラブルが多発している京都や大阪といった都市部においては、東京23区と同様、あるいはそれ以上に厳しい規制強化(いわゆるゼロ日規制や特区民泊の受け付け停止など)に動く可能性が極めて高い。
一方で、私が事業を展開している北海道のようなエリアでは、当面はこのような一律の規制強化には進まないと見ている。最大の理由は、圧倒的な「宿泊供給数の不足」だ。
インバウンド需要が急拡大する一方で、既存のホテルや旅館だけでは到底受け入れきれていない。ではホテルを新設すれば良いかというと、建設コストの高騰や人手不足もあり、ビジネスとして採算が成り立つエリアは極めて限られている。
地域の観光インフラや経済を維持するためには、民泊という柔軟な受け皿が不可欠であり、今後も一定の需要と市場機能が担保され続けるはずだ。
一律に「民泊=悪」として規制を強めるのではなく、地域ごとの需給バランスや経済事情を見極めた持続可能なルール運用こそが、本来あるべき行政の姿ではないだろうか。


